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独立行政法人国立病院機構 函館病院

循環器科からのお知らせ

薬剤溶出ステントによる狭心症治療について

2009.3.3

安在 貞祐
内科系診療部長安在 貞祐

 1977年世界で初めてバルーンカテーテルによる狭心症治療(経皮的冠動脈形成術)が行われてから、今年で30年になります。当初はバルーン拡張に伴う冠動脈解離、急性冠閉塞が少なからず認められましたが、1990年代初めから利用可能となった冠動脈ステント(図1)によりこのような合併症は激減しました。しかしながら、ステントを用いてもなお再狭窄率は20-30%にのぼり、冠動脈バイパス術を含めた再治療を必要とするケースが相当数あったことは事実です。

図1 

 2004年夏から日本でも使用可能となった薬剤溶出ステントは、このような状況を一変させるものでした。ステント内再狭窄とは、冠動脈病変を拡張した後に植え込まれた金属メッシュの内部に、数ヶ月経過した後徐々に新たな組織が増殖して血管内腔を再び狭めることによって生じるものです。現時点で日本で使用できる薬剤溶出ステントは1種類だけですが、これは金属メッシュにある種の免疫抑制剤が塗布してあり、ステント内の組織増殖を強力に抑える作用があります。この結果、薬剤溶出ステント植え込み後の再狭窄率は5-10%ときわめて低くなっています。言い換えれば、薬剤溶出ステントを植え込んだ患者さまは、90-95%の確率で(その治療部位に限っては)二度と追加治療が必要なくなるということです。このようなメリットから、現在当院では薬剤溶出ステントをカテーテルによる狭心症治療の第一選択としており、とても良好な結果が得られています。
実際の症例を示します。以前に通常のステント植え込みが行われましたが、5ヶ月後にステント内再狭窄による狭心症再発を認めたため、同じ部位に薬剤溶出ステントを植え込みました。以後狭心症は消失し、1年6ヶ月後の再検査でもまったく再狭窄を認めておりません(図2)。
薬剤溶出ステントを含めたカテーテル治療は、局所麻酔だけで行うことができ、患者さまの身体的負担が少ないことから、狭心症治療の主流となってきています。

図2

 ただし、狭心症の主な原因である動脈硬化は、肥満、喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病などのいわゆる冠危険因子の是正なくしては、新たな病変進行を予防することはできません。食事療法、運動療法、禁煙など患者さまご自身のライフスタイルの見直しこそが、私たち医療者が行う専門的治療以上に大切であることを強調したいと思います。